昨年末、SF作家のグレッグ・イーガンが映画『君の名は。』を見たとtwitterでつぶやき、新海誠監督がそれに応えるやりとりが話題となりました。
長編アニメーション映画『君の名は。』は東京の少年と飛騨の少女の間で入れ替わりが起こることから始まるストーリーで、2016年に公開され大ヒット作となりました。新海誠監督は、『君の名は。』公開時のインタビューで、自身が影響をうけた作品のひとつとしてグレッグ・イーガンの『貸金庫』を挙げています。
グレッグ・イーガン(1961-)はオーストラリアの小説家で、この『貸金庫』はSF短編集『祈りの海』に収録されている30ページほどの短編です。毎日、目覚めると他人の身体に入り込んでいる男の話で、たしかに「入れ替わり」現象という点では『君の名は。』との共通項がありそうです。イーガンは物理科学のバックグラウンドを持ち、病院でプログラマーとして働きつつ執筆を始めた覆面作家で、この短編には彼の病院勤めの経験や認知科学の知識が反映されているように思います。
『貸金庫』もそうですが、生命体としてのアイデンティティを問う作品には心惹かれるものがあります。『祈りの海』と同じくヒューゴー賞・ローカス賞を受賞しているテッド・チャンの短編集『あなたの人生の物語』と『息吹』は収録作をゆっくり読んでいるところです。一度に読むともったいないようなしっかり消化できないような、そんな思いでひとつひとつ読み進めています。
