自分が小さかったときも、そして自分のこどもたちが小さかったときに読んだり読み聞かせた五味太郎さんの絵本は両手では収まりきらない数にのぼります。
ひらがなは「ことばのあいうえお」で、かずは「たべたのだあれ」で学び、「まどからのおくりもの」や「はいしゃさんどきっ」で笑って、「正しい暮らし方読本」で“正しさ”の多様性を知ったわけです。そして、少し大きくなってからは「ことわざ絵本」でことわざとその意味を覚えました。
そんな五味太郎さんの本のなかでも思い入れの強いのがエッセイ集「ときどきの少年」です。小学校高学年か中学くらいの国語の教科書に「クロス・プレー」というエッセイが載っており、これが「ときどきの少年」というエッセイ集に収録されていることが書かれていました。野球のルールもよくわからないし、そもそも教科書が初めて配られた日に読み終わったのに、その後に授業で何回も読まされて「クロス・プレー」には飽きていたのですが、あの、“絵本の五味太郎”のエッセイであることに魅かれて購入したのです。
この本に収録されているのは、ちょうど小学校から中学生にかけての五味太郎さん自身の体験に基づいて綴られたものがほとんどです。初めて読んだ当時のの自分もちょうどこの“こども”と“おとな”の間くらい。正直よくわからない話もあったし、自分のことかと思うくらい似ていて胸がぐっとした話もありました。のちに読み返してみると、おとなになって初めて意味が解った話もありつつ、自分にもあんな時代があったなと遠いむかしを懐かしむ気持ちになります。
でもふと、おとなになってしまったいまの自分には小学校、中学校に通っていたときの記憶なんて曖昧で、ましてやその頃の気持ちなんて泡みたいな儚いもので、あの解像度であの頃のことを描写できる五味太郎さんの頭のなかは常人とは違うなと思うのでした。
