ここしばらく、ひたすら映画を観ていました。とある動画配信サービスの無料トライアル期間だったのです。いままで気になっていたけれど他のサービスでは観られない作品がありましたが、ここにはたくさんあって、夏休みだし無料期間中に全部観てしまおう!と思ったのです。でもお気に入りリストにはまだまだたくさん入っているし、本と同じで読んだ、観た作品がまた別の作品を連れてくるのはいつものことで、継続でサブスクリプト契約したいなと思い始めています。(無料トライアルでちゃんと潜在顧客が釣れたようですね…)
『スキャナー・ダークリー』はフィリップ・K・ディックの『暗闇のスキャナー』を原作としたリチャード・リンクレイター監督の映画作品です。主演はキアヌ・リーブスで、すべての映像は実際に演技をした俳優さんたちの映像をなぞってアニメーション化するロトスコープという手法がとられています。この映画では、薬物中毒者に特有の小さい虫が身体中を這う幻覚シーンや、麻薬捜査官が匿名性を保つために着ている特殊なスーツだったり、この手法がとても効果的に使われています。一方で、俳優さんたちは実際に演技をしている実写をベースとしているので、キアヌ・リーヴスのちょっと内股な歩き方やロバート・ダウニー・Jrのなど、通常のアニメーションよりリアリティある映像になっているため、自分がいま見ているシーンは現実なのか、登場人物がみている幻覚世界なのか、観ている自分も巻き込まれてふたつの境界が曖昧になっていく様子がうまく表現されていると思いました。
原作はディック自身の薬物使用の体験を踏まえた自伝的小説でもあります。エンドロールで淡々と流れてくる薬物使用により後遺症を抱えた、または死に至った友人だちの名前は、SFの世界の話だったものを現実の問題として突きつけてくるものでした。
もうひとつ、作者自身の薬物使用体験との関りが深い映画を観ました。『裸のランチ』はウィリアム・バロウズの小説をデビッド・クローネンバーグ監督が再解釈して映像化した作品です。害虫駆除を生業としながらも薬物とアルコールに依存し、現実と幻想の狭間で小説を書き、妻をウィリアム・テルごっこに誘う主人公にはバロウズ自身の人生が投影されています。原作の猥褻さにクローネンバーグらしいグロテスクな異形のものたちが加わり、情動回路をがつんと刺激してくる映像が不快感をもたらします。昆虫のような見た目なのに叩き潰すと赤い血がでたり、肛門様の器官をつかってしゃべったり(なんだか星新一『親善キッス』を思い出したり…)することで、妙な人間っぽさがあるのです。ムカデやゴキブリが主な脅威であるのも薬物乱用による神経伝達物質の攪乱がみせてくる悪夢、という感じがしました。主人公視点では巨大昆虫の死体が入っている袋のなかは、第三者視点に切り替わると薬瓶などのガラクタがいっぱい入っているだけだったり、急に現実世界に戻るのが怖かったですね。一体、私たちはいま何を見ているのか?幻想世界?現実?となるのが『スキャナー・ダークリー』と共通して怖いところでした。この映画、オープニング・クレジットがすごくカッコいいです。フォントといい、色使いといい良いのです。印象に残るのはホラー要素がつよいクリーチャーたちですが、それを周りで支えるスタイリッシュな映像もクローネンバーグの魅力なのかもしれません。
薬物使用による著名人の訃報がきょうも報じられています。アルコールや薬物など中枢神経系に作用する物質への依存症は、身近な問題としていまここにあることを突き付けた2作品でした。

