ここしばらく、隣接する市の図書館に通っています。取り揃えている本も図書館によってそれぞれ違うので、ときどき別の図書館に行くとたのしみが増えます。
最近、借りて読んだ中でよかったのは劉 慈欣『円 劉慈欣短篇集』、カズオ・イシグロ『クララとお日さま』でしょうか。また、『<責任>の生成ー中動態と当事者研究』はしばらく手元に置いておきたくてその後、書店で購入しました。
この本は哲学者の國分功一郎さんと小児科医の熊谷晋一郎さんの対談という形をとっています。とはいっても冒頭に書かれているようにこれは2人の研究者による「研究の記録」であり、濃密なやりとりが収められています。國分さんの著作『中動態の世界』ではアルコールや薬物依存症患者さんの体験を紐解きながら、受動とも能動ともいえない状態、中動態的枠組みで「意思」を考える試みをおこなっています。後半の哲学の考古学パートは素人にはなかなかむずかしかったのですが、言語体系は思考にも大きく影響するのだなあなんて思った記憶があります。
『暇と退屈の倫理学』では、精神科領域の医学的なことがらには敢えて踏み込まずに書いた、とのちに國分さんは話されていました。が、今回の本では、脳性麻痺で車いすユーザーでもある熊谷さんとの対談を通して、自閉症スペクトラム障害を抱えつつ自身も研究者である綾屋紗月さんの体験も引き合いに出しつつ、國分さんの提唱する中動態的な考え方が身体的・精神的疾患をもつ患者さんの症状や生き方をどう理解し、助けることができるのかという部分まで踏み込んでいました。この点が大変興味深かったです。
「自由意志」や「予測誤差」「サリエンシー」など神経科学で馴染みのあることばも登場し、異なる視点からこれらの概念を眺めることで新たな発見もありました。
話し合いながら、書きながら、少しずつ考えがまとまっていったり少しずつ理解が深まっていく、自分のブログにも通じるそんなプロセスを一緒に感じることができた読書体験でした。
