柚木沙弥郎 life・LIFE

染色家でアーティストの柚木沙弥郎さん(1922-)の企画展示「柚木沙弥郎 life・LIFE」がPLAY! MUSEUMで本日まで開催されています。

「柚木沙弥郎 92年分の色とかたち」では、型染はもちろんのこと日本民藝館店のポスター、絵本やお店の看板などの作品などが紹介されています。また、作品が生まれる現場としての作業風景や型染の指示書など、作品の裏側も垣間見ることができます。

個人的に嬉しいのは、”蒐集品と審美眼”と題された章です。ここでは柚木さんが長い間あつめてきた世界各国のコレクションが紹介されています。自分がいいと思う、その眼で選び抜かれた雑貨たちは所狭しと部屋に飾られ、それが居心地のよい空間をかたちづくっています。以前「Atelier Morandi」のブログでも触れたような気がしますが、わたしは他人の家の中、とくにアーティストのアトリエをみるのが好きなので、この章の写真は眺めているととてもたのしいです。

「泰平ヨン」シリーズと「コングレス未来学会議」

ポーランドの小説家スタニスワフ・レムについては映画「惑星ソラリス」とその原作の「ソラリス」についてこのブログでも触れたことがあります。レムは「泰平ヨン」という主人公がさまざまなところに行くSF小説シリーズも執筆しています。

そのシリーズの中の「泰平ヨンの未来学会議」では、泰平ヨンが出席した世界未来学会議でテロに巻き込まれ、未来世界を彷徨うことになるのです。

この作品は監督は『戦場でワルツを』のアリ・フォルマン監督により2013年にフランス・イスラエル合作の『The Congress(コングレス未来学会議)』として映画化されました。といっても、この映画の主人公は泰平ヨンではなく女優のロビン・ライトで、本人役で出演しています。ストーリーもハリウッド版未来学のような、原作からはかなり改変されたものになっています。この映画は実写パートとアニメーションパートがあるのですが、その使い分けが綿密に練られていて、それが映画と原作に共通するコンセプトを紡ぎだしています。この実写・アニメの融合によりこれまでにない映画体験をしたのが印象に残っています。

実は、わたしは先に映画を観ました。レムの原作と知ってあとから「泰平ヨンの未来学会議」を手に取ったのです。でも、映画の体験が強烈すぎて原作を読んでいると映画のシーンが割り込んできてしまい、文章を追いながら自分自身による視覚化をおこなう“読書体験”に入り込めませんでした。なにも知らない状態で原作を先にたのしみたかったなと思っています。

Amazon.co.jpより

コーネルの箱

世界中から神経科学者が集まり最新の研究を発表しあう、北米神経科学会とよばれる学術会議が年に一回開かれます。2020年はCOVID-19の大流行に伴い開催が中止され、今年はオンライン上のみでのバーチャル学会となりました。近年は、アメリカ合衆国の3都市、ワシントンD.C.、シカゴ、サンディエゴを交代で回ります。

2019年は会場がシカゴで、ポスター発表をするために参加してきました。学会は5日間の会期なのですが、初日は午後からだったり途中でぽっと見たい発表がない時間帯ができることがあります。そういうときには、会場を抜けて街中に足を運ぶこともあります。前回、2015年のシカゴでの学会ではそんな時間を利用してシカゴ現代美術館にいったのですが、今回はシカゴ美術館にいくことにしました。

美術館には素晴らしい作品がたくさんあり、その規模も想像以上で、じっくり見るには時間が足りませんでした。でもその中で一番印象に残ったのはジョセフ・コーネルの作品群です。「アメリカ美術」の順路をすすんでいると、メイン通路からは少し奥まったところに照明を落とした薄暗い一角があるのに気がつきました。その一角に足を踏み入れてみると、大きなガラスケースがありそこにたくさんの小さな箱たちが並んでいました。それぞれの箱にはひとつひとつ小さな世界が広がっており、魅了されてしまいました。コーネルの箱だけでなく、マルセル・デュシャンの小さな立体作品もあり、非常に充実したコレクションでした。

美術館にはアンディ・ウォーホール特別展の垂れ幕が大々的にディスプレイされていました。なんと、翌日からの開催とのことです。今回の滞在は学会参加がメインですから、なかなか街中を観光する時間がとれません。残念ながら特別展の鑑賞は見送りました。次の機会にまた訪れたい場所です。

ソラリスと1984

以前、アンドレイ・タルコフスキーに関連して、映画「惑星ソラリス」に少し触れましたが、今回はその原作Solarisについてのブログです。

少し前の話になりますが、書店をうろうろしていたところ、ハヤカワ文庫SFのスタニスワフ・レムの「ソラリス」が平置きになっていました。ところが、私の知っている表紙ではないのです。なんだかカッコイイ!帯の解説を読むと、どうやらスタニスワフ・レム生誕100周年を記念しての限定カバーだそうです。そして、記念グッズもサイトで販売とのこと。デザインはフィリップ・K・ディックのカバーデザインで知られるポジトロンの土井宏明さんでした。

ちなみに持っている「ソラリス」本は飯田規和・訳の「ソラリスの陽のもとに」で、これしか読んだことがなかったのですが、今回の限定カバーは沼野充義・訳です。飯田訳はロシア語翻訳からの日本語翻訳で、ロシア語訳の時点でソ連の検閲に対する自主規制のため原作の一部が削られているのですね。それが、沼野訳では原作のポーランド語からそのまま日本語へ翻訳されており完訳になっています。以前、「沼野訳は物語の解像度がぐっと上がっている」という読者コメントをどこかで読んで気になっていました。ということで、沼野訳は限定カバーとともにこの機会に入手してみました。

早川書房のサイトでは、さっそく記念グッズの「ソラリス」Tシャツを注文してしまいました。そして同じサイトにあった「1984」トートバッグも…これは完全に予定外のうれしい買い物です。

カスタムメイドの革バッグ

革のバッグを革物作家の9nuiさんにつくっていただきました。

昨年、「このバッグが欲しい!」と思えるような黒い革バッグの画像をウェブでたまたま見つけました。そのバッグを出品されていた作家さんに、「これと同じものをつくってください」という感じで初めてオーダーをしたのでした。一見シンプルなのですが、丁寧なつくりとラクダ革のびっくりするほどの軽さ、真鍮の留め具がついたベルトや横長のフォルムなどがとても気に入り、以来愛用しています。

今年になって、数年間つかってきたTHREAD-LINEのキャンバストートが遂にぼろぼろになってしまいました。A4ファイルも入るし物の出し入れが容易なので、仕事にスポーツ観戦にとガシガシ使ってきました。つぎも同じものにしようかな…と思いつつ、帆布生地は長年使うと角や持ち手の擦り切れがどうしても気になります。消耗していくのではなく、経年変化を愛でられるものがいいなと思いました。9nuiさんに明るい色の革のサンプルをいただき、いろいろ考えたうえで、初夏にアイボリー色の牛革のトートバッグを注文しました。

9nuiさんのウェブサイトではバッグがつくられる工程なども垣間見ることができます。注文から納品までの数か月のあいだも、いまごろ革が輸入されたかなとか、型紙から革が切られているのかな、とか、ちょうど縫っている頃かも、などと勝手に想像を巡らせ、待ち時間をたのしむことができました。

ファンタスティック・プラネット

「ファンタスティック・プラネット」は1973年にフランス=チェコ・スロバキア合作で制作されたSF長編アニメーション映画です。フランスの作家ステファン・ウルのSF小説「Oms en Série (オム族がいっぱい)」を原作としてルネ・ラルーが監督・脚色をしています。原作は、フランス語版に加えて英語版が出版されているようです。

しばらく前に名古屋シネマテークで上映していたので気になっていたのですが、緊急事態宣言もあり行けなかったのでレンタルして観ました。

舞台は地球ではないどこかの惑星。真っ青な肌に赤い目をした巨人ドラーグ族と、彼らに虫けらのように虐げられる人類オム族の、種の存続をかけた決死の闘いを描くー。(『ファンタスティック・プラネット』公式サイトより)

話の中心となるドラーグ族とオム族のそれぞれの造形はもちろんのこと、惑星に生息している動植物も強烈な個性を放っています。笑い声をあげながら、鳥のような生物を捕まえては地面に叩きつけて殺すのを繰り返している籠の中の生き物や、一見植物のようだけど突然動き出すもの、舌で人類を絡めて捕食する巨鳥のような生物…。ハラルト シュテュンプケの「鼻行類」、レオ・レオーニの「平行植物」や、、ドゥーガル・ディクソンの「アフターマン」のような世界観を彷彿とさせます。

これらの奇妙で魅力的なクリーチャーたちはフランスの小説家、舞台俳優、画家と多彩な顔をもつローラン・トポールの原画をもとにつくられました。人物画はチェコ・スロバキアのアニメーターで画家、脚本家でもあるヨゼフ・カーブルトが手がけました。作画ももちろんですが、電子音っぽいサウンドも妙にかっこいいです。サウンドトラックがでているようなので欲しいなあ。フランスのジャズピアニスト、アラン・ゴラゲールが手がけているそうです(Wikipediaによると、彼はセルジュ・ゲインズブールのサイドマンだとか)。

1973年に発表され、その後の多くの作品に大きな影響を与え続けているSFアニメーション映画です。久しぶりに、観たあとも余韻が残り続ける作品に出合えました。

(公式ポスター)

ウルトラセブン 4Kリマスター版

すこし前に、NHK-BSプレミアムでウルトラセブンの4Kリマスター版が放映されていました。「ウルトラセブン」は、「ウルトラQ」「ウルトラマン」に続く円谷プロダクションの空想特撮シリーズ第3弾です。1967年から約1年間、テレビ放映されました。

エレキングやメトロン星人に代表される怪獣の造形の可愛さだけでなくストーリーのおもしろさが魅力的です。とくに、第44話「恐怖の超猿人」は霊長類研究所のお隣、日本モンキーセンターが舞台になっています。モンキーセンターで展示されているゴールデンライオンタマリンという黄金の毛をもつサルが実は…というお話です。とても怪しい博士や実験装置がでてきたり、人のような猿のような男が登場したりと、いろいろ突っ込みどころがありつつも、展開が読めずにドキドキ・ハラハラもしてしまう回です。

ファッションや部屋の内装も、古さを感じずいま見てもおしゃれだなと思うものも多いです。とくに、第34話「蒸発都市」にでてくる 霊媒師のユタ花村の雰囲気がとても気に入っています。オリエンタルな顔立ちを生かすアイラインを強調したメイクが素敵です。またストーリーでは、自宅に帰ると奥さんに「どちらさまです?」といわれてしまう、安部公房的な第47話「あなたはだぁれ?」が、日常がひっくり返る感じがする作品で個人的には好きです。

return to OZ

「オズの魔法使い」の物語はみなさんよくご存じだと思います。絵本や映画、ミュージカルなどさまざまな作品となってこどもたちに語り継がれています。

この「オズの魔法使い」はアメリカの作家であるライマン・フランク・ボームが書いた児童文学作品です。第一作の「オズの素敵な魔法使い」が商業的に大成功を収め、その後もつぎつぎと続編が生まれることになります。映画「Return to Oz」は、続編の「オズの虹の国」と「オズとオズマ姫」を原作としてディズニーが製作した実写映画で、1985年に公開されました。当時、父に映画館に連れて行ってもらい鑑賞したことを覚えています。

印象深い作品のひとつで、大人になってまた観たくなり、数年前にDVDを購入しました。日本語字幕つきは販売されてなくて英語版のみでした。こども向け作品なのでかんたんな英単語をつかった英語字幕がでるので、そのときはまだ小さかった息子にセリフを訳してあげながら一緒に観ました。こどものときも、そして大人になっても家族とたのしめる作品に出合えたことを嬉しく思った記憶があります。登場人物の造形や衣装、設定が素敵なんです。ホイーラーズとかモンビ女王などはその日の夜に夢にでてきそうな感じがあります。

ここ数年で見た映画のなかで、Return to Ozに似た雰囲気の印象深い映画に「アリス」と「パンズ・ラビリンス」があります。「アリス」はチェコスロバキア出身のヤン・シュヴァンクマイエル監督の1988年の作品で、「パンズ・ラビリンス」はギレルモ・デルトロ監督の2006年の作品です。これらについてはまた機会があったら書きたいと思っています。

アンドレイ・タルコフスキ―「ノスタルジア」

旧ソ連の映画監督であるアンドレイ・タルコフスキー (1932-1986) の映画「ノスタルジア」(1983年)は大好きな作品のひとつです。タルコフスキーというと、「惑星ソラリス」(1972年) の方が有名かもしれません。スタニスワフ・レムのSF小説「ソラリス」が原作となっています。

映画「ノスタルジア」は、何か劇的なできごとがつぎつぎに起こるストーリーではありません。登場人物も、この映画の主人公でありモスクワからイタリアへ旅行にきている作家で詩人のゴルチャコフ、旅に同行している通訳のエウジェニア、旅先の温泉街で出会った世界終末から人類の救済を試みるドメニコくらいしか登場しません。しかし、作品中のドメニコの家のなかの壁にかかれた「1+1=1」や、広場でのドメニコの行為をみつめる観衆が石段に立っている様子…などいくつもの心に残るシーンがあります。たとえていうと、まるで構図を計算しつくして撮られたアンリ・カルティエ=ブレッソンの一枚の写真のように、その「決定的瞬間」が脳裏に焼きつくのです。この美しい映像を、映画全編を通して堪能することができる作品です。

作品に対する表現の制限や信仰への圧力が強まる中、タルコフスキーはソ連を出国し、この映画はイタリアを舞台に撮影されました。そして、この映画の完成直後の1984年、タルコフスキーはイタリアへの亡命を正式に表明します。「ノスタルジア」では、主人公のゴルチャコフは、弾圧をうけつつイタリアを放浪しロシアに帰国して自殺した18世紀の音楽家の足跡を追います。また、ゴルチャコフの心的映像としての故郷の光景も挿入されます。すべてはタルコフスキー自身のノスタルジア、故郷への想いを重ねたものであり、これらがフィルムに焼きつけられた作品になっています。

私自身は郷愁、いわゆる、いまはは離れている生まれ育った土地を想って寂しく思う気持ちはあまりありません。多少離れているとはいえ、文化もさほど変わらない小さい国のなかだからでしょう。ですから、主人公の故郷への気持ちに対してそれほど感情移入はできないのです。それでもこの映画がすきなのは、幼いころ自分を通してみた映像やそれらを基に記憶として脳内で形成された映像たちと感情がいまの自分自身を形づくっている実感があり、それらをこの作品を通してつよく感じることができるからかもしれません。 

「ノスタルジア」の一場面 (C)1983 RAI-Radiotelevisione Italiana.Licensed by RAI TRADE-Roma-Italy,All Right Reserved.

諸星大二郎展

現在、三鷹市美術ギャラリーで諸星大二郎展が開催中です。

諸星大二郎(1949年生まれ)は多数の熱狂的ファンをもち、異分野のクリエイター、研究者といった幅広い層からも絶大な支持を得ている漫画家です。1970年『ジュン子・恐喝』で実質的なデビューを果たし、74年『生物都市』で第7回手塚賞を受賞、本格的な活動を開始しました。(三鷹市スポーツと文化財団サイトより)

考古学者である稗田礼二郎を主人公としたシリーズ(いわゆる妖怪ハンター)の中のエピソード「黒い探求者」にはヒルコさまという異形がでてきます。このヒルコさまになってしまった考古学者であった八部少年の父の姿が顔出しパネルとして美術館に置かれているそうです。東京在住であったら、是非顔をだしに行くところですが…残念です。

個人的には、ある惑星に仕事にいき現地の女性に魅かれた男性の姿を描く、「男たちの風景」という短編がすきです。

諸星大二郎の作品は、異界を垣間見せてくれるものでもあり、でも逆にどこか懐かしさも感じるものが多いです。心を深いところで揺さぶられるのが魅力ですね。