先々月、豊田市美術館で「未完の始まり:未来のヴンダーカンマー」展を観てきました。15世紀から18世紀のヨーロッパでつくられていた、世界中の珍しいものを陳列した部屋はWunderkammer(驚異の部屋)と呼ばれ、これが現在の美術館や博物館の前身であると考えられています。このたび、豊田市美術館の横に豊田市博物館がオープンするのに伴い、企画されました。
田村友一郎の映像作品にでてくる「チタン化したわたし=TiME」というキーワードには、身体と精神の破壊とその再生について切り込んだ映画『TITANE/チタン』を思い出したりしました。この映画の監督であるジュリア・デュクルノーの母親は婦人科医、父親は皮膚科医で、幼い頃から両親の医学書を眺めては身体への興味を募らせ、『悪魔のいけにえ』やデイヴィッド・クローネンバーグ作品を観て育ったそうです。これを知って、ああここからこの映画が産まれたのだ、深く納得したことを覚えています。
一番興味を惹かれたのはタウス・マハチェヴァの「セレンディピティの採掘」でした。遠隔地の他者と感覚を共有したり、コミュニケーションをとる装置や自然との関わりを図るデバイス、”セレンディピティ”を発掘された真鍮塊として象ったものなど7点のオブジェクトのコンセプトと、これらを形にして常に身につけられるように具現化したもの、そして制作風景の映像からなる作品です。これは1971年にロシアで開催されたソチ精神技術会議にて、科学者たちによって提案されたアイディアを現代の視点から発展させた、という設定だそうです。シェルドレイクの「形態共鳴仮説」を伺わせる作品もありました。装置そのものは錬金術的、超自然的な話なのですが、一方で自然現象を可視化したいとか、遠く離れたところからも他者の気持ちを知り交流したい、など先端科学で目指そうとしていることと重なり合う部分もあるように思い、印象に残りました。
予告チラシで気になっていた映像作品のプレビューが2つとも実際には展示されておらず、別の作品に差し替えられていたのは残念でした(ニホンザルがビデオカメラを持って立っている映像だったので、霊長類研究者としては気になって是非、観てみたかった)。チラシは展覧会開催日のずっと前に作成、配布されるので仕方がないのかもしれません。展覧会カタログの写真がすごく良くて、何気なく奥付をみると、「展示風景写真 ToLoLo Studio」とありました!ToLoLo Studioさんは我が家が完成したときにそれはそれは素敵な写真を撮ってくださった写真スタジオです。こんな形での思いがけない再会を嬉しく思いました。
企画展がメインですが、常設展もまた観てきました。以前このブログでも言及したヨーゼフ・ボイスやクリスチャン・ボルタンスキーの作品はいつ見ても「これいいなあ、好きだなあ」と思うのでした。
展覧会に訪れた時点ではまだオープンしていなかった豊田市博物館は、丘のうえに建っているのを仰ぎ見ることができました。建築家・板茂の設計です。一方、豊田市美術館は建物が建築家・谷口吉生、庭園はランドスケープ・アーキテクトのピーター・ウォーカーの設計です。同行者は、展覧会自体はあまり自身の興味にあまり刺さらなかった様子でしたが、美術館と博物館の建築デザインの組み合わせについては思うところがあったようです。ひとつの展覧会にいっても鑑賞者それぞれにいろいろな見方や得るものがあっておもしろいなと思ったのでした。

