ひとつの単語について考える

8月の東京滞在でルイジ・ギッリ展に行ったあとに寄ったのが恵比寿にあるアートブック・インテリアショップのPOSTでした。ルイジ・ギッリの写真集『Atelier Morandi』と出会ったのが20年前のこの書店(当時はlimArt)です。その所縁もあり、今回展覧会ついでに足を延ばしてみました。

店内はアートブックや写真集が所狭しと並び、気になった本を次々に手に取りながら、その時間を楽しんでいました。そのなかで目に留まったのが『ALL WORDS AND ONE』です。古い文献や、遺跡からの出土品のようなもの、絵画、オブジェ、こどもの絵、現代アート風の作品などが収められおり、どれも裸の人が仰向けになり大きな一本足を上げて手で支える姿をモチーフにしています。スタッフの方が「これはマーク・マンダースによるskiapodという実在はするけれどほとんど使われることのない単語についての社会実験的な本なんです」と教えてくださいました。

この本にまつわる彼の実験的な試みは次のようなものです。まず、無数に存在する単語の中からskiapodという神話に登場する伝説上の存在を指す言葉を選びます。架空の歴史を創作とともに構築し、さまざまなメディアを通じて拡散していく。やがて人々がその言葉を使うようになったところで、今度はそれらの虚構を社会から削除していく。そうして、その言葉が再び使われなくなる過程までを含めて、一つの実験とするのです。

本書には、彼と協力者たちによって生み出された、数々の skiapod を題材としたオブジェや絵画、アート作品が収められています。かつてはWikipediaのページまで作られ、あたかも古代から実在し、人々を魅了し続けてきた存在であるかのように振る舞っていました。この実験は、そうした捏造された情報を社会から「削除」することで完結したとされていますが、本当にそれは完全に消え去ったのでしょうか。

私たちがネット検索で目にする情報や、対話型AIが返してくる答えは、果たして誰の意図も介在していないものだと言えるのでしょうか。そんな問いを、アート作品を楽しみながら静かに突きつけてくる一冊でした。

そんな

投稿者: Naho KONOIKE

大学の研究室で脳の研究をしています。このサイトでは、研究活動の紹介とともに日々感じたことなどを綴っています。このサイトのコンテンツは個人の見解であり、所属する機関とは関係ありません。

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