“ポーランドの貴族ポトツキが仏語で著した奇想天外な物語。(岩波書店)”
と紹介される『サラゴサ手稿』の存在をはじめて知ったのは国書刊行会の世界幻想文学大系〈第19巻〉でした。『ヴォイニッチ写本の謎』だったか荒俣宏氏の著作つながりかなにかで『サラゴサ手稿』は私のほしい本リストに入り込んだのでした。
ほしいものリストにはずっと存在しつつ、しかし買い物カートへ移動することはないまま数年が経ち、岩波書店から『サラゴサ手稿』の全訳が出る、という情報が飛び込んできました。おお、では全訳を読む前にまずはダイジェスト版といわれている世界幻想文学大系バージョンから、と思ったら、みなさん考えることは同じのようです。つい最近まで3000円ほどだった古書になんと2万円を越える価格がついていました。
全三冊で、現在は中巻まで発売されています。相変わらずさまざまな人物が登場し、さまざまな物語を語っていき、語られる舞台もヨーロッパのあちこちに飛びます。そして相変わらず主人公は絞首台のそばで目が覚めるのです。複雑な入れ子構造は千夜一夜物語やデカメロンのようで、さらに夢と現実の境界もあいまいとなり、読んでいる方もくらくらしてきます。来月には下巻が発売されるので、たのしみに待ちつつ、まだ途中の中巻を読み進めたいと思います。
ちなみにこの本が原作の1965年のポーランド映画『サラゴサの写本』はまだ観たことがありません。こちらも現在、ディスクの入手や鑑賞が困難なようです。どこかのミニシアターで上映しないかな…。
さて、訳者の畑浩一郎氏は研究者であり、日本の研究者データベースであるresearchmapにページがあります。私は神経科学を専門とする研究者で、人文学はまったくの専門外で素人です。それでもリンクから読める聖心女子大学論叢では、全訳に至る経緯やポトツキの生涯など、この物語の背景を垣間見ることができ、より作品をたのしむことができました。
