チェコの映画監督であるヤン・シュヴァンクマイエル(1934-)は、実写とアニメーションを融合した独特の作品をつくっています。これまで、不思議の国のアリスをモチーフにした長編映画『アリス』と、ヨハン・ファウスト伝説を基にした長編映画『ファウスト』は観たことがあったのですが、先日、2000年発表の『オテサーネク 妄想の子供』をはじめて鑑賞しました。
オテサーネクはもともとチェコの民話で、ひとを食べる切り株が登場します。不妊症に悩む夫婦がアパートに住んでいます。今回も赤ちゃんを授かることができずに塞ぎこむ妻。夫婦は隣人の勧めで別荘を購入し、週末はそこで過ごすことにします。あるとき、夫が庭から掘り出した切り株に顔や手足に見立てた加工をして妻に見せたところ…これが、怖ろしい出来事のはじまりになりました。夫婦や隣人の娘の視点から、ときに笑えてときに悲劇的な物語が進行していきます。気味の悪い食事シーンや性的メタファーなど随所にシュヴァンクマイエルらしさが盛り込まれていました。
「食人植物」はさまざまな作品で扱われています。わたしが好きな映画作品のひとつにギレルモ・デル・トロ監督の『パンズ・ラビリンス』があります。この映画では、マンドラゴラが主人公オフェリアの妊婦である母親の運命を左右するものとして登場します。絵本と少女、妊婦、そして木の根に魂が宿るというアニミズム的発想…『オテサーネク』を観て『パンズ・ラビリンス』を連想したのにはこれらの共通点がありました。
映画『オテサーネク』には、切り株のオテサーネクが主人公であるチェコの民話の絵本が出てきます。この絵本を隣人の少女が朗読する形で、アパートで起きる数々の出来事と絵本の内容が交錯つつ、物語が進んでいきます。絵本は監督の妻で、映画の共同制作者でもあるエヴァ・シュヴァンクマイエロヴァが絵を描いており、実際に出版されています。牧歌的な挿絵とストーリーのグロテスクさの落差がなんともいえません!


