押井守監督のアニメ映画「イノセンス」は「Ghost in the shell/攻殻機動隊」の続編となる作品です。2004年に公開されました。この映画の冒頭はフランスの作家ヴィリエ・ド・リラダン「未来のイヴ」からの引用で始まります。
”われわれの神々もわれわれの希望も、もはやただ科学的なものでしかないとすれば、われわれの愛もまた科学的であっていけないいわれがありましょうか”
「未来のイヴ」は科学者エジソンがひとりの恋する青年のために、理想の女性を模したハダリーという人造人間(アンドロイド)をつくりだす物語です。1886年に発売されたSF作品ですが、その色褪せない魅力により数多くの作品で引用され、わたしも大好きな小説のひとつです。
このハダリーという存在は、「イノセンス」だけでなく、岩井天志・小濱伸司により制作された自動人形映画「独身者の機械」(1998年に公開)や、伊藤計劃・円城塔のSF小説「屍者の帝国」(2012年)にも登場します。
フランスの批評家ミシェル・カルージュは1954年に出版した「独身者の機械」で、未来のイヴをはじめとした芸術作品について「独身者機械」をキーワードにして紐解く、独創的な考察を展開しています。
じつは、「イノセンス」の冒頭部分は、「未来のイヴ」そのものの邦訳ではなく、このカルージュの旧邦訳版「独身者の機械 未来のイヴ、さえも・・・・・・」から引用されているのです。このことは、「イノセンス」もまたカルージュの独身者機械論に大いにインスピレーションをうけて生まれた作品である証だと思います。
