将軍池と都立松沢病院

少し前になりますが、世田谷区立将軍池公園を訪れました。

精神科の専門病院である都立松沢病院の広大な敷地内に池があります。大正時代に松沢病院の加藤普佐次郎医師と看護師ら、そして多くの患者さんにによって屋外作業療法の一環としてつくられました。現在、この池の東側に広場が整備されており、公園から柵越しに池をみることができます。

将軍池の名前は、この作業療法に参加した葦原金次郎(1852-1937)にちなんだものです。将軍と自らを名乗った葦原は有名な患者として精神科の授業でも取り上げられました。別の都立病院に勤務していたときにも伝説の患者として名前を聞いたものです。

松沢病院の第5代院長である呉秀三(1865-1932)は日本の精神医学の父ともいわれる人物です。呉は、1918年に「精神病者私宅監置ノ実況及ビ其統計的観察」という、精神障害者の私宅監置に関する全国実態調査をまとめた書物を発表しました。私宅監置とは、精神障害者やその疑いのある者を家族が自宅の一室や敷地内につくった隔離室に閉じ込めておく仕組みです。座敷牢ともよばれ、1900年に施行された精神病者監護法に基づくものでした。呉は、この実態を調査報告し、精神障害者の処遇改善を訴えました。また、松沢病院から拘束具を追放し、保護室の使用を減らしました。呉の理念は、いまでも精神医療にかかわる多くの人々に引き継がれています。

精神病院で目覚めるシーンからはじまる夢野久作の「ドグラ・マグラ」。この作品の重要人物の名前が“呉”なのも無関係ではないかもしれません。

訪れた日は陽射しが強い日でしたが、日陰は心地よくベンチに座ってゆっくり池を眺めていました。写真も撮ったのですが、「松沢病院の敷地内なので池の写真掲載は病院の許可を得て」と世田谷区のサイトに注意書きがありましたので公園の写真だけ掲載します。

投稿者: Naho KONOIKE

大学の研究室で脳の研究をしています。このサイトでは、研究活動の紹介とともに日々感じたことなどを綴っています。このサイトのコンテンツは個人の見解であり、所属する機関とは関係ありません。

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