1986年に行われたアイヌの祭祀を描いた北村皆雄監督のドキュメンタリー映像が『チロンヌプカムイ イオマンテ』がリストアされ、劇場公開されたそうです。
“狩猟民のアイヌの伝統では、動物は肉や皮を土産に人間の国へ来るとされている。育てた動物は“イオマンテ”という祭祀で祈りを捧げ、歌や踊りで喜ばせて、土産と共に神の国へ送る。”(ぴあより)
しばらく前にこの映画のことを知り、でもそのときはポレポレ東中野でしか上映されていなかったので、「東京だけか…」と観るチャンスはないと思っていました。しかしその後、全国のミニシアターで順次上映され始めているようです。
この映画情報をネットで知ったその当日、そこそこ近所の図書館に立ち寄りました。本を借りるつもりでも、返却期限のちかい本があったわけでもなかったのですが、休日にふらりという感じでした。図書館の入り口にいつもと違うイベントスペースが設けられていて、中から唸り声のようなものが聴こえたのです。覗いてみるとコンサート中でした。
四辻藍美さんによる力強く個性的なアイヌ刺繍が施された布たちが、壁にずらっと展示されていました。まるでそのイベントスペースに結界が張られているように感じました。その空間ではアイヌ装束に身を包んだ2人の男性がアイヌの伝統歌・ウポポを歌います。そして、見たことのない楽器から音を出していました。”音を出していた”という表現はいささか奇妙ではありますが、まさにそんな印象を受けたのです。
あとで調べるとそれらの楽器はトンコリ(弦楽器)とムックリ(口琴)とよばれるものでした。ムックリは竹製の板にひもがついたもので、口にあててひもを引くことで弁を振動させ、口腔内に共鳴/増幅させて演奏するものです。口の形や呼吸を変化させることで、音が変わります。
ムックリから奏でられる音は重厚感があり、そして倍音を含んでいるせいかアイヌの衣装に身を包んだ儀式的な雰囲気のせいなのか、身体の芯までもが共振して震える体験をしました。
いつもの近所の図書館という日常のなかで、突然目の前にアイヌの空間が広がっていたある日のできごとでした。
アイヌの人々の生活については、たくさんのふしぎ『アイヌ ネノアン アイヌ』で伺い知ることができます。著者の萱野茂(1926-2006)はアイヌ文化研究者として、そして、アイヌ初の国会議員となった方です。また、たくさんのふしぎ『つな引きのお祭り』は映画『チロンヌプカムイ イオマンテ』の監督でもある北村皆雄さんの著作です。
たくさんのふしぎは、こどもの頃から私に本当にいろんな世界を見せてくれます。

