1945年にフランスの画家ジャン・デュビュッフェは精神疾患患者など美術の専門教育を受けていない人々が他者を意識せずに創作した芸術をアール・ブリュット、すなわち“生(き)の芸術”と名づけました。その後、1972年にイギリスの美術史家ロジャー・カーディナルにより、このアール・ブリュットに対応する英語として、そしてその概念を広げた「アウトサイダー・アート」ということばがつくられました。
これらの用語の創出に先立ち、1922年にドイツの精神科医で美術史家でもあったハンス・プリンツホルンは「精神病患者の創造」と題する本を出版しています。この本でプリンツホルンは450名もの精神病患者の5000点以上の作品をもとに、150枚以上におよぶ図版を示して創作物を紹介しました。
この日本語翻訳「精神病者はなにを創造したのか―アウトサイダー・アート/アール・ブリュットの原点―」(ミネルヴァ書房)では、プリンツホルンは彼らの創作における心的事象を
“自己以外の目的に支配されず、ただ独りで自己自身の造形だけを目指す衝動的な生命の過程”
と表現しています。
展覧会の会場では、この『衝動』を目の当たりにすることがあります。また、美術手帖で連載されている櫛野展正「アウトサイドの隣人たち」では、全国津々浦々にいる”表現せずにはいられない”隠れた芸術家たちが紹介されています。美術の専門教育の有無にかかわらず、このような過程を経て創られたものは見るひとを圧倒する力を持っているようです。

