最後の日

最後の日

NHK-BSプレミアムでアメリカの映画監督ジョン・カーペンター(1948-)の作品を放映していました。
アメリカの作家ジョン・W・キャンベル(1910-1971)による短編SF小説『影が行く』を原作とした映画『遊星よりの物体X』が1951年に公開されました。それをリメイクしたのが1982年公開の『遊星からの物体X』です。南極の暗闇と厳寒のなかででどんどん追いつめられていく南極の研究者たちの姿を描いたSFホラー映画です。とくに、ドクターがある隊員に除細動しようとするシーンが忘れられません。臨床現場を離れて随分と長いので、除細動器をつかうことは今後ほぼないと思うのですが、もし次つかうときにはこの映画のシーンが頭をよぎる確信があります。
South Pole Telescopeの公式は2018年に「南極では、夏の最終便が出発した直後に、越冬隊員が「The thing (遊星からの物体Xの原題)」を見るのが毎年の恒例行事になっている。」とtweetしています。おおお、これ以上ないすてきな鑑賞シチュエーションです!
『ゼイリブ』は1988年公開のSFホラー映画で、主人公たちと異星人との戦いを描いていますがこちらは割と社会風刺がきいた作品になっています。どちらの作品もあたかも仲間に見えるけれど「何か」に入れ替わっている恐怖を描いており、じわじわと心が追いつめられるおすすめ映画です。


先日、ストップ・モーション長編アニメの『JUNK HEAD』を観ました。
“奇才・堀貴秀がたった一人で独学で作り始め7年かけ完成させた奇跡のSFストップモーションアニメ。環境破壊やウィルス感染による遺伝子崩壊で滅亡に向かう地下世界を舞台に人類存続をかけたJUNK HEAD の奇妙で未知なる壮大な冒険が始まる” (JUNK HEAD公式サイトより)
まずは、この映画をつくりあげた情熱とその莫大な作業量に思いを馳せてしまいました。かなり前になりますが、イギリスのストップ・モーションアニメ『ひつじとショーン』の制作ドキュメンタリ番組を観たことがあります。ひとコマひとコマ少しずつ粘土でつくった登場人物や背景を撮影する気の遠くなるような作業を延々をしていて印象的でした。ただ、こちらはいくつものスタジオで並行して大人数で撮影をしていました。それに比べると映画『JUNK HEAD』の圧倒的人数の少なさ!登場人物たちの声も堀貴秀さんがほとんどひとりでやられたのです。
そんな制作の裏側だけでなく作品としても、わたしとしてはグッとくるところがいくつもありました。
ひとつは登場する生命体やそのボティの造形です。主人公が地下世界で初めてつくってもらったボディをはじめ、地下生命体はグロテスクなのにどこか可愛さがあったり、記憶に残るキャラクターたちが多くいました。造形だけでなくキャラクターもいいのですよね。あと、地下のスチームパンク的な世界観が恰好いいです。幼いころ、よるの中央道を走る車の窓からながめた安中の工場地帯を思い出しました。
あと、音楽もカッコいいです。劇伴は作曲家の近藤芳樹さんが手がけているそうです。登場人物たちがあやつる複数の異世界言語もときどきツボなリズムがあってそこが笑いを産み出していました。
最後に印象に残った点。地上では人間は不老不死の世界なのですが、主人公が地下世界で普通なら死ぬようなひどい目に遭いまくるわけですね。いろいろあったあとにポツリと「上にいるときより今のほうが生きているって感じがするんだよね」というようなことを言います。このセリフは、ちょうど映画を観終えたあとに読み始めた國分功一郎『暇と退屈の倫理学』のテーマに通じるところがあって、(映画ではあまり描かれていない)不老不死の人間たちの地上での暮らしにも思いを馳せつつ読み進めています。
『JUNK HEAD』は続編も予定されているそうです。制作援助のためにささやかながらYAMIKENストアでお買い物をしてみました。

昨年末、SF作家のグレッグ・イーガンが映画『君の名は。』を見たとtwitterでつぶやき、新海誠監督がそれに応えるやりとりが話題となりました。
長編アニメーション映画『君の名は。』は東京の少年と飛騨の少女の間で入れ替わりが起こることから始まるストーリーで、2016年に公開され大ヒット作となりました。新海誠監督は、『君の名は。』公開時のインタビューで、自身が影響をうけた作品のひとつとしてグレッグ・イーガンの『貸金庫』を挙げています。
グレッグ・イーガン(1961-)はオーストラリアの小説家で、この『貸金庫』はSF短編集『祈りの海』に収録されている30ページほどの短編です。毎日、目覚めると他人の身体に入り込んでいる男の話で、たしかに「入れ替わり」現象という点では『君の名は。』との共通項がありそうです。イーガンは物理科学のバックグラウンドを持ち、病院でプログラマーとして働きつつ執筆を始めた覆面作家で、この短編には彼の病院勤めの経験や認知科学の知識が反映されているように思います。
『貸金庫』もそうですが、生命体としてのアイデンティティを問う作品には心惹かれるものがあります。『祈りの海』と同じくヒューゴー賞・ローカス賞を受賞しているテッド・チャンの短編集『あなたの人生の物語』と『息吹』は収録作をゆっくり読んでいるところです。一度に読むともったいないようなしっかり消化できないような、そんな思いでひとつひとつ読み進めています。

染色家でアーティストの柚木沙弥郎さん(1922-)の企画展示「柚木沙弥郎 life・LIFE」がPLAY! MUSEUMで本日まで開催されています。
「柚木沙弥郎 92年分の色とかたち」では、型染はもちろんのこと日本民藝館店のポスター、絵本やお店の看板などの作品などが紹介されています。また、作品が生まれる現場としての作業風景や型染の指示書など、作品の裏側も垣間見ることができます。
個人的に嬉しいのは、”蒐集品と審美眼”と題された章です。ここでは柚木さんが長い間あつめてきた世界各国のコレクションが紹介されています。自分がいいと思う、その眼で選び抜かれた雑貨たちは所狭しと部屋に飾られ、それが居心地のよい空間をかたちづくっています。以前「Atelier Morandi」のブログでも触れたような気がしますが、わたしは他人の家の中、とくにアーティストのアトリエをみるのが好きなので、この章の写真は眺めているととてもたのしいです。

ポーランドの小説家スタニスワフ・レムについては映画「惑星ソラリス」とその原作の「ソラリス」についてこのブログでも触れたことがあります。レムは「泰平ヨン」という主人公がさまざまなところに行くSF小説シリーズも執筆しています。
そのシリーズの中の「泰平ヨンの未来学会議」では、泰平ヨンが出席した世界未来学会議でテロに巻き込まれ、未来世界を彷徨うことになるのです。
この作品は監督は『戦場でワルツを』のアリ・フォルマン監督により2013年にフランス・イスラエル合作の『The Congress(コングレス未来学会議)』として映画化されました。といっても、この映画の主人公は泰平ヨンではなく女優のロビン・ライトで、本人役で出演しています。ストーリーもハリウッド版未来学のような、原作からはかなり改変されたものになっています。この映画は実写パートとアニメーションパートがあるのですが、その使い分けが綿密に練られていて、それが映画と原作に共通するコンセプトを紡ぎだしています。この実写・アニメの融合によりこれまでにない映画体験をしたのが印象に残っています。
実は、わたしは先に映画を観ました。レムの原作と知ってあとから「泰平ヨンの未来学会議」を手に取ったのです。でも、映画の体験が強烈すぎて原作を読んでいると映画のシーンが割り込んできてしまい、文章を追いながら自分自身による視覚化をおこなう“読書体験”に入り込めませんでした。なにも知らない状態で原作を先にたのしみたかったなと思っています。


世界中から神経科学者が集まり最新の研究を発表しあう、北米神経科学会とよばれる学術会議が年に一回開かれます。2020年はCOVID-19の大流行に伴い開催が中止され、今年はオンライン上のみでのバーチャル学会となりました。近年は、アメリカ合衆国の3都市、ワシントンD.C.、シカゴ、サンディエゴを交代で回ります。
2019年は会場がシカゴで、ポスター発表をするために参加してきました。学会は5日間の会期なのですが、初日は午後からだったり途中でぽっと見たい発表がない時間帯ができることがあります。そういうときには、会場を抜けて街中に足を運ぶこともあります。前回、2015年のシカゴでの学会ではそんな時間を利用してシカゴ現代美術館にいったのですが、今回はシカゴ美術館にいくことにしました。
美術館には素晴らしい作品がたくさんあり、その規模も想像以上で、じっくり見るには時間が足りませんでした。でもその中で一番印象に残ったのはジョセフ・コーネルの作品群です。「アメリカ美術」の順路をすすんでいると、メイン通路からは少し奥まったところに照明を落とした薄暗い一角があるのに気がつきました。その一角に足を踏み入れてみると、大きなガラスケースがありそこにたくさんの小さな箱たちが並んでいました。それぞれの箱にはひとつひとつ小さな世界が広がっており、魅了されてしまいました。コーネルの箱だけでなく、マルセル・デュシャンの小さな立体作品もあり、非常に充実したコレクションでした。
美術館にはアンディ・ウォーホール特別展の垂れ幕が大々的にディスプレイされていました。なんと、翌日からの開催とのことです。今回の滞在は学会参加がメインですから、なかなか街中を観光する時間がとれません。残念ながら特別展の鑑賞は見送りました。次の機会にまた訪れたい場所です。



以前、アンドレイ・タルコフスキーに関連して、映画「惑星ソラリス」に少し触れましたが、今回はその原作Solarisについてのブログです。
少し前の話になりますが、書店をうろうろしていたところ、ハヤカワ文庫SFのスタニスワフ・レムの「ソラリス」が平置きになっていました。ところが、私の知っている表紙ではないのです。なんだかカッコイイ!帯の解説を読むと、どうやらスタニスワフ・レム生誕100周年を記念しての限定カバーだそうです。そして、記念グッズもサイトで販売とのこと。デザインはフィリップ・K・ディックのカバーデザインで知られるポジトロンの土井宏明さんでした。
ちなみに持っている「ソラリス」本は飯田規和・訳の「ソラリスの陽のもとに」で、これしか読んだことがなかったのですが、今回の限定カバーは沼野充義・訳です。飯田訳はロシア語翻訳からの日本語翻訳で、ロシア語訳の時点でソ連の検閲に対する自主規制のため原作の一部が削られているのですね。それが、沼野訳では原作のポーランド語からそのまま日本語へ翻訳されており完訳になっています。以前、「沼野訳は物語の解像度がぐっと上がっている」という読者コメントをどこかで読んで気になっていました。ということで、沼野訳は限定カバーとともにこの機会に入手してみました。
早川書房のサイトでは、さっそく記念グッズの「ソラリス」Tシャツを注文してしまいました。そして同じサイトにあった「1984」トートバッグも…これは完全に予定外のうれしい買い物です。


革のバッグを革物作家の9nuiさんにつくっていただきました。
昨年、「このバッグが欲しい!」と思えるような黒い革バッグの画像をウェブでたまたま見つけました。そのバッグを出品されていた作家さんに、「これと同じものをつくってください」という感じで初めてオーダーをしたのでした。一見シンプルなのですが、丁寧なつくりとラクダ革のびっくりするほどの軽さ、真鍮の留め具がついたベルトや横長のフォルムなどがとても気に入り、以来愛用しています。
今年になって、数年間つかってきたTHREAD-LINEのキャンバストートが遂にぼろぼろになってしまいました。A4ファイルも入るし物の出し入れが容易なので、仕事にスポーツ観戦にとガシガシ使ってきました。つぎも同じものにしようかな…と思いつつ、帆布生地は長年使うと角や持ち手の擦り切れがどうしても気になります。消耗していくのではなく、経年変化を愛でられるものがいいなと思いました。9nuiさんに明るい色の革のサンプルをいただき、いろいろ考えたうえで、初夏にアイボリー色の牛革のトートバッグを注文しました。
9nuiさんのウェブサイトではバッグがつくられる工程なども垣間見ることができます。注文から納品までの数か月のあいだも、いまごろ革が輸入されたかなとか、型紙から革が切られているのかな、とか、ちょうど縫っている頃かも、などと勝手に想像を巡らせ、待ち時間をたのしむことができました。

「ファンタスティック・プラネット」は1973年にフランス=チェコ・スロバキア合作で制作されたSF長編アニメーション映画です。フランスの作家ステファン・ウルのSF小説「Oms en Série (オム族がいっぱい)」を原作としてルネ・ラルーが監督・脚色をしています。原作は、フランス語版に加えて英語版が出版されているようです。
しばらく前に名古屋シネマテークで上映していたので気になっていたのですが、緊急事態宣言もあり行けなかったのでレンタルして観ました。
舞台は地球ではないどこかの惑星。真っ青な肌に赤い目をした巨人ドラーグ族と、彼らに虫けらのように虐げられる人類オム族の、種の存続をかけた決死の闘いを描くー。(『ファンタスティック・プラネット』公式サイトより)
話の中心となるドラーグ族とオム族のそれぞれの造形はもちろんのこと、惑星に生息している動植物も強烈な個性を放っています。笑い声をあげながら、鳥のような生物を捕まえては地面に叩きつけて殺すのを繰り返している籠の中の生き物や、一見植物のようだけど突然動き出すもの、舌で人類を絡めて捕食する巨鳥のような生物…。ハラルト シュテュンプケの「鼻行類」、レオ・レオーニの「平行植物」や、、ドゥーガル・ディクソンの「アフターマン」のような世界観を彷彿とさせます。
これらの奇妙で魅力的なクリーチャーたちはフランスの小説家、舞台俳優、画家と多彩な顔をもつローラン・トポールの原画をもとにつくられました。人物画はチェコ・スロバキアのアニメーターで画家、脚本家でもあるヨゼフ・カーブルトが手がけました。作画ももちろんですが、電子音っぽいサウンドも妙にかっこいいです。サウンドトラックがでているようなので欲しいなあ。フランスのジャズピアニスト、アラン・ゴラゲールが手がけているそうです(Wikipediaによると、彼はセルジュ・ゲインズブールのサイドマンだとか)。
1973年に発表され、その後の多くの作品に大きな影響を与え続けているSFアニメーション映画です。久しぶりに、観たあとも余韻が残り続ける作品に出合えました。
